資本コスト: 1円を調達するのにかかるコスト「WACC」を見極めよ
◆利息と株主期待利回り
投資家は企業に(1)社債の購入、(2)株式への投資という2つの方法により資金を提供する。社債の購入で企業に資金を貸し付ける場合、投資家は企業が行っているビジネスのリスクを見ることにより、そのリスクに応じた利息rDを要求する。一方、株式に投資する場合は、ビジネス上のリスクのほかに、どの程度の負債を抱えているかという財務状況も勘案して利回り(配当と値上がり益の合計)を期待する。この利回りのことを株主期待利回り(株主要求利回り)rEと呼ぶ。
◆資本コスト 加重平均資本コスト
借入れに対する利息(rD)と株主期待利回り(rE)は、企業サイドから見れば、貧金調達に伴うコストとなる。この場合、rDは借入コスト、rEは株主資本コストと呼ばれる。企業は毎年債権者に対してrDの利回りを返さなければ倒産につながる。一方、株主の期待に反してrEの利回りを達成できなければ、株主総会などで経営責任を厳しく追及され、最悪の場合経営陣は解任されてしまう。つまり、企業は債権者と株主の両者を満足させなければならない。
◆加重平均資本コスト(WACC: Weighted Average Cost of Capital)
企業は負債コストrDと株主資本コストrEを個別に知ること以上に、資金を1円調達するのにいくらのコストがかかっているかを示す加重平均資本コスト(WACC)に関心がある。ビジネスではWACC以上の利回りを上げることができれば負債コストと株主資本コストの両方をカバーでき、債権者と株主を共に満足させることができるからだ。WAGCは以下の式により求めることができる。
WACC = 0.6 × 6% × (1 – 0.5) + 0.4× 9% = 5.4%
◆資本コストの推定
負債コストは比較的計算しやすい。債権者に対して支払うコストとは、主に利息(金利)だ。企業が借入れの対価として銀行の当座預金に一定の残高を預けることによる機会損失や、手形割引の割引料など金利以外で支払われるコストがある場合は、これらも年利換算して表す。負債額(D)についても、割引発行などがある場合は、額面ではなく、市場価格に換算する必要がある。
加重平均資本コスト(WACC)の計算プロセス
マネー・マーケット 加重平均資本コスト(WACC)の計算プロセス
加重平均資本コスト(WACC)の計算プロセス
仮に税引後の資本調達コストと、調達資金の市場価値の2つが事前に分かれば、加重平均資本コスト(WACC: Weighted 加重平均資本コスト Average Cost of Capital)は、次のように計算することができる。
このとき、全ての調達資本の市場価値は、通常、会計報告で用いられる過去実績コスト(historical cost)ではなくて、現在価値(current market value)でなければならない。
- 個々の資本調達手段(有利子負債、優先株式、普通株式など)ごとに年あたりの税引後資本コストを計算する
- 個々の資本調達手段が企業全体の資本構成に対する構成比を決める
- 個々の資本調達手段の税引後資本コストと調達金額の掛け算の積を合計する
加重平均資本コストは年利(annual rate)として表現されるというのがお約束である。
負債の資本コスト計算(技術的な論点)
WACCを計算する場合、理論的には負債としては長期借入金のみを考慮に入れ、仕入債務、未払金/未払費用、その他の非有利子負債は含まない。ここで重要なポイントは、 季節的な 短期借入金はWACCの計算範囲からは 除外する ことだ。
WACC計算の主眼は、恒久的な資金調達のコストを計算することである。仮に、短期借入金が借り換えが継続的に行われ、あたかも極度貸付枠(revolving line of credit)のように恒久的な資金調達源となっている場合は、当然にWACC計算の対象資本構成に算入する。
\( \displaystyle \bf WACC = (2.4\% \times 60\%)+(8.4\% \times 40\%) = 1.44\% + 3.36\% = 4.8\% \)
コメント